【第1章―7】 「―――な…」 なんのつもりだ、と、声にも出せずに悪魔を見る。 あの悪魔が、予想外の行動を取る、そこまでは予想通り。 しかし、左手に残る結果は、予想外≠フ枠さえ超えていた。思考を巡ら せ、得ようとしていた結果が今、手の中にある。実りある成果だ。しかし、 喜びなんてものが湧いてくる余地がない。 驚きと困惑に思考を埋め尽くされたのは、周囲にいた悪魔たちも同様だっ たようで、皆、視線は一点に留まり、停止してしまう。 つまりこの場は、あの悪魔一人の支配下。 彼はゆっくり、腕を下ろした。 赤い瞳を、見上げる。 彼の表情には、余裕や、笑みはなかった。剣の有無など関係ないと、こち らを嘲笑う意味での行動と読んだのだが、それさえも否定される。そうであ ったのなら、彼はもっと楽しそうにするだろう。 油断を招くため、か? いや、それなら投げた瞬間に何か仕掛けたはず。 間が空き過ぎている。 (羽根、離せ) カツェントは、胸の内で、そう念じた。 口に出しては負けだと思った。 (剣に何か仕掛けられたか? ……いや、視界からも意識からも外したの はわずかの時間だ。何か出来る時間ではない) それに、触れるだけで痛みがある。 (ていうか剣構えろよ、せっかく渡してやったんだから! そしたら自然に 羽根おちるし!) 右手の指先から力を抜き、羽根を手放す。羽根はそのまま地面に落ちて横 たわる。ほとんど麻痺していた痛覚が、じりじりとよみがえる。 (あ、もしかしてこれ≠セったのか?) 横手から「よっしゃ」と聞こえたような気がした。 「何を考えている、カツェント」 ようやく言葉を得たのは、鳥の悪魔だ。 「ど、どうする?」 カツェントは相手したくない。 「―――、天使を仕留めろ、早く」 「娯楽の対象がなくなれば、奴の気も済む。なに、恨みや怒りで、我らと 戦う程、奴の気は長くはない」 天国でつかう「気が長い」とずいぶん意味合いが違う気がする。 |